2011年2月17日木曜日

ドラッカーの言葉「企業の目的は顧客創造」を実践しない者は滅び?

 ニトリ、ユニクロを展開するファーストリテイリング、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド、Apple、Dellなど、超優良企業の成功ストーリーが語られている。一方、日本を代表する企業で失敗に悩む身近なケースもある。一体、どこに違いがあるのか。

 奇しくも「企業の目的は顧客創造である」と喝破したドラッカーの経営理論に焦点を当て、若干の分析を試みる。

 ニトリはローコストオペレーションで成り立っているという認識を持たれているが、安さだけで勝負を挑んでいるわけではない。基本的に、日本人が潜在意識として持っている欧米並みの豊かな住生活という顧客欲求を実現させる、という経営理念がある。そして家具は購買頻度が低いことを前提に、購買頻度の高いホームファッション商品も取り揃える。

 ユニクロの代名詞とも言われる「フリース」から、薄い生地で軽量ながら発熱?保温?抗菌?保湿などの機能を備えた肌着「ヒートテック」、Tシャツ風にはブラジャーは要らないという顧客要求に応えたブラカップ内蔵型キャミソール「ブラトップ」、洗濯機で洗えるセーターが欲しいという要求に応えた「マシンウオッシャブルニット」など次々と出すヒット商品は、顧客ニーズに徹底的に応えようとする姿勢と革新的技術に裏打ちされている。

 自前の工場を持たず、マーケティングとイノベーションに特化して顧客を創り出すという方針である。顧客要求に応えて顧客満足度を上げるという姿勢の典型的な例として、1995年のことだが、品質チェックが行き届かないケースが増えたことに対する対策として、ユニクロへのクレーム提出者に1人100万円を提供したと言われる有名な逸話がある。

 東京ディズニーリゾートは、1983年の東京ディズニーランド開園以来、他のテーマパークを全く寄せ付けない。毎年の入園者が1000万人以上で2位の長崎ハウステンポスと比較して約4倍、売上高も4倍近くだ。その経営理念は有名だが、まさに顧客を創り出すことにある。

 第1に非日常的空間の演出、第2に常に新規アトラクションを導入するなどの工夫を凝らしている。毎年100億円も投資し、顧客を決して飽きさせない。第3に従業員の良質なサービスなど、高レベルなサービスは定評がある。第4は園内の清潔さ、その他に顧客を囲い込んだオリジナル商品、飲食店の充実などがある。すべてが高価すぎるという不満を持ちながら、顧客は頻繁に訪問を繰り返す。

 米AppleのiPadが絶好調で、品不足のため米国以外の発売が1カ月以上も延期され、中国では既にコピーが出始めたと言われる。iPad は操作性に優れ、画面も美しく、デザインも魅力的で、手軽に持ち運びができる。多くのコンテンツが後を追う。一説によると、iPad は顧客の要求を取り入れたのではなく、顧客を作り出すという発想から設計されているとも言われる。

 Dellの成功は「良い物を作れば売れる」という技術志向のコンピュータ業界で、顧客ニーズに合わせた革新的サービスを考え出した点にある。「マス?カスタマイゼーション」と言われる方法は、顧客個々の要求スペックに合わせた製品を、大量生産価格で供給するものだ。実際に注文してみると、それほど広い選択肢があるわけではないが、顧客は要求スペックどおりの「注文生産」に応じてくれたという満足感を得られる。もう1つの特長は、中間業者を介在させないインターネットや電話による直販であるが、これが低価格の実現や顧客満足にもつながっている。

 しかし、これらのDellオリジナルだった特徴に同業他社が既に追随しており、新鮮味は薄れている。今やDellに他社より優れた特徴を問い合わせても、ソフトや周辺機器の有料サポートサービスくらいしか出てこない。幹部も「ご指摘どおり、敵は他社ではなく自分自身だ」と言ってはばからない。近年、Dellは大きな問題に続けて直面している。バッテリーの大規模リコール問題、証券関連の株主訴訟、カナダでPC過熱の集団訴訟、不正な会計処理に対する当局の調査など、Dellはどこかで顧客を忘れてしまったのだろうか。あるいは、顧客創造は最初から建前に過ぎなかったのか。

 以上の成功例は、ドラッカーが著書『マネジメント』で喝破した「企業の目的は顧客創造である」、その目的を達成するための機能としてマーケティングとイノベーションがある――を地で行った結果である。岐路に立つDellからも1つの教訓が得られる。

 誠に残念ながらドラッカーの理論に反して失敗している企業は枚挙に暇がない。大手エレクトロニクスメーカーA社では、トップの判断基準がすべて利益だ。人事評価も設備投資認可もすべてが利益次第、赤字部門は社内で人間扱いされない。ドラッカーが利益の定義の1つを、企業の目的である顧客創造という成果を判断する基準であるとすることなど、およそA社トップの念頭にない。A社は利益の最大化を最終目的とする。

 A社は技術力に優れ、それが売りでもあった。それが利益至上主義による災いに油を注ぐことになった。A社は、FAX、携帯端末、小型記憶装置など、ほとんどの製品で日本における先駆者だった。しかし、高シェアを取り、高収益をもたらした製品は1つもない。ただ、携帯端末で国内のOEM、小型記憶装置で米国のOEMを受注し、一時売り上げ急増と高収益で潤ったことはあるが、それらのOEMを失注したことがすべての終わりを意味した。自社ブランド製品が少ないということは、市場基盤がないということだからだ。

 トップは機会あるごとに口にした「なぜいつも最初に開発しながら売れないんだ」「売り方を考えて製品開発しろ」「ハードだけでなく、ソフトも考えろ」「研究所は、売ることを考えて技術開発しろ」、しかし、そんな思い付きの口先介入だけで事態が好転するほど甘くない。

 A社は、「顧客創造」に人も金もかけなかった。例えば小型記憶装置について事業部販売責任者が、全国要所にアンテナショップやショールーム兼商談室を設置すること、顧客向けサンプルを何十台か用意すること、マーケティングを試みることなどへの投資を提案したが、本社経理から一切拒否された。ドラッカーは、マネジメントとは企業の方向付けを行い、ミッションを決め、その上で目標を定めて「資源を動員し」、成果に責任を持つこととしているが、A社トップは利益最大化にのみ関心があり、「顧客創造」のための「資源の動員」ができなかったわけだ。

 今政府は日本経済活性化の一手段として、海外からの観光誘致を挙げている。しかし、今まで筆者が経験した国内外の観光旅行でのいくつもの顧客無視の対応に、果たして旅行業者各社は観光誘致に満足に対応できるのか疑問を抱かざるを得ない。

 B社の中国西安敦煌ツアーに参加した時だ。敦煌に到着したホテルでの夕食時、男性添乗員が急に言い出した「疲れたので、明日の莫高窟の見学は省略します」。告げられたツアー参加者たちは狐につままれた表情をしたが、次の瞬間一女性客が猛然と食って掛かった、「何を言ってるの、わたしたちは疲れていませんよ。それに莫高窟を見るのがこのツアの主目的じゃないですか、何を考えてるんですか、絶対行きます!」。ツアー客全員がブーイングである。その剣幕に押された添乗員は、しぶしぶ言った、「じゃあ、行きます」。その添乗員は、成田空港からおかしかった。ツアー客の中の最年少の若者を手なずけて、使い走りなどをさせていた。終始顧客無視で、自己中心もはなはだしい。それにしても、メインの莫高窟観光中止という余りにも常軌を逸した言動について、筆者は未だに真意を計りかねている。

 C社のオランダ?ベルギーツアーに参加した。旅行日程の初めごろ、妻がバスの棚に布製手提げを置き忘れた。女性添乗員に話したら、届けてもらうのに5万円掛かると言う。それほどの値打ちはないので断ると、じゃあ3万円と言う。届けてもらうのにタクシー代や人件費が掛かるからだ、と添乗員は言う。依頼すると、ツアー最終日の帰国便を待つアムステルダム空港に、中国系の大柄な女性が件の手提げを持って現れた。添乗員は、手提げを受け取りながら予め渡しておいた3万円を中国系女性に渡そうとする。しかし、彼女は受け取りを拒否する。2人の間で多少のやり取りがあったが、あくまでも受け取りを拒否し続ける中国系女性に、結局添乗員は強引に3万円を渡した。わたしたちには、割り切れないものが残った。

 D社の国内温泉バスツアー2泊3日コースに参加した。往きの昼食は自由、添乗員は「食堂の一般席は混みますから、予約した方がいいです」と薦めるので、ほとんどの参加者が「1500円の昼食は重いんだけど??????」と言いながら、予約を入れた。結局、一般食堂はガラガラだった。3日目の帰途、バスの中で添乗員はまたまた言い出した、「帰りは遅くなるので、夕食の弁当を注文された方がいいです。ドライブインでは弁当を買う時間はありません」。何人かが予約を入れた。予約弁当を積み込んだドライブインでは、何のことはない、各自弁当を買う時間は十分にあった。弁当を予約しなかった客たちは、好みの食事を購入できた。しかも、バスの中で予約した豚肉舞茸弁当は味が濃すぎて、健康にいかにも良くなさそうだった。旅行会社は、儲けることしか考えていないのだろう。

 これらは、ほんの一部の例に過ぎない。これほど顧客無視の例が多いと、利益追求中心主義が旅行会社の体質だとしか考えられない。客が新興国になったら、どうなることやら。

 ドラッカーの「企業の目的は顧客創造である」を実践する企業は生き残り、かつ発展するが、実践できない企業はそう遠くない将来淘汰される運命をたどるだろう。

(ITmedia エグゼクティブ)

引用元:函館市歯科の総合情報サイト

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